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扶養内で働く個人事業主はいくらまで?|税と社会保険の扶養基準と経費の関係

配偶者の扶養に入ったままフリーランス・個人事業主として働きたいとき、「いくらまで稼いでいいのか」が最初の疑問になります。パートの「103万円の壁」のような給与の話はよく聞きますが、個人事業主の場合は判定の仕組みが異なり、「収入(売上)」ではなく「所得」で判定される場面と、経費の扱いが税とは違う場面があります。この記事では、税の扶養と社会保険の扶養を分けて、判定基準と計算例を解説します。

※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいています。

「扶養」には税金と社会保険の2種類がある

一口に「扶養内」と言っても、実際には別々の制度が2つあります。基準も判定方法も異なるため、まずここを分けて考えることが重要です。

税の扶養(配偶者控除など)社会保険の扶養(被扶養者)
何の制度か扶養する側の所得税が軽くなる自分で健康保険料・年金保険料を払わなくてよい
判定の対象その年(1〜12月)の合計所得金額今後1年間の見込み年収
基準額所得58万円以下(配偶者特別控除は133万円以下まで)年収130万円未満など
経費・控除必要経費と青色申告特別控除を差し引いた後で判定差し引ける経費の範囲が健康保険により異なる
外れるとどうなるか扶養する側の税負担が増える自分で国民健康保険・国民年金に加入する

税の扶養は「所得いくらまで」、社会保険の扶養は「年収いくらまで」という別のものさしで測られます。以下、順に見ていきます。

税の扶養は「収入」ではなく「所得58万円以下」で判定

配偶者控除の対象になれるのは、年間の合計所得金額が58万円以下(2025年分=令和7年分以後)の配偶者です(国税庁 No.1191 配偶者控除)。「給与収入123万円以下」という数字も同じページに載っていますが、これは給与だけの人向けの換算値です。個人事業主にはこの収入基準は当てはまらず、次の式で計算した「所得」で判定します。

事業所得 = 収入(売上) − 必要経費 − 青色申告特別控除

青色申告特別控除(最大65万円。要件はこちらの記事で解説)も差し引いた後の金額で判定されるため、売上ベースでは123万円をはるかに超えていても扶養内、ということが普通に起こります

計算例:売上200万円・経費80万円・青色申告特別控除65万円の場合

200万円 − 80万円 = 120万円(青色申告特別控除前の所得)
120万円 − 65万円 = 55万円(事業所得)
55万円 ≦ 58万円 → 配偶者控除の対象

売上が200万円あっても、経費と青色申告特別控除を差し引いた所得が58万円以下なら、税の上では扶養内です。このとき扶養する側(例:会社員の夫・妻)は38万円の配偶者控除を受けられます(扶養する側の合計所得金額が900万円以下の場合。900万円超は段階的に縮小し、1,000万円を超えると配偶者控除は受けられません)。

なお、配偶者以外の親族(16歳以上の子や親など)に適用される扶養控除も、扶養される側の要件は同じく合計所得金額58万円以下(2025年分以後)です(国税庁 No.1180 扶養控除)。親の扶養に入りながら個人事業を営む場合も、考え方は上と同じです。

所得58万円を超えても段階的に使える配偶者特別控除

所得が58万円を超えても、すぐに控除がゼロになるわけではありません。配偶者の合計所得金額が58万円超133万円以下であれば、金額に応じた配偶者特別控除があります(国税庁 No.1195 配偶者特別控除。2025年分以後。扶養する側の合計所得金額1,000万円以下が条件)。

扶養する側の合計所得金額が900万円以下の場合の控除額は次のとおりです(900万円超950万円以下・950万円超1,000万円以下の場合は、それぞれ控除額が小さくなります)。

配偶者の合計所得金額控除額
58万円超 95万円以下38万円
95万円超 100万円以下36万円
100万円超 105万円以下31万円
105万円超 110万円以下26万円
110万円超 115万円以下21万円
115万円超 120万円以下16万円
120万円超 125万円以下11万円
125万円超 130万円以下6万円
130万円超 133万円以下3万円

計算例:売上300万円・経費135万円・青色申告特別控除65万円の場合

300万円 − 135万円 = 165万円
165万円 − 65万円 = 100万円(事業所得)
→ 95万円超100万円以下の区分 → 配偶者特別控除36万円

所得95万円までは配偶者控除と同額の38万円が控除されるため、「58万円を1円でも超えたら一気に損」ということはありません。税の扶養は崖ではなく坂になっています。

社会保険の扶養は「年収130万円未満」— 経費の扱いに注意

健康保険の被扶養者(配偶者の場合はあわせて国民年金第3号被保険者)でいられるかどうかは、税とはまったく別の基準で判定されます。原則は年間収入130万円未満(60歳以上または一定の障害がある方は180万円未満)で、原則として、同居の場合は収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満、別居の場合は仕送り額より少ないことも必要です(日本年金機構 被扶養者の手続き)。ここでの年間収入は過去の実績ではなく、今後1年間の見込み収入額で判定されます。なお、2025年10月1日以降は、19歳以上23歳未満の家族(配偶者を除く)の基準が150万円未満とされています。

個人事業主にとって重要なのは、この130万円の判定で経費を全額差し引けるとは限らないことです。協会けんぽは、自営業の方の年収を「年間総収入から必要経費を差し引いた額」とした上で、差し引ける必要経費を「社会通念上明らかに当該所得を得るために必要な経費」に限る、それ以外の費用は差し引けない、としています(協会けんぽ 被扶養者資格再確認に関するFAQ)。つまり、税の計算で必要経費にできたものがそのまま全部認められるとは限りません。また、実際の支出を伴わない青色申告特別控除まで差し引けるとはされていない点にも注意が必要です。

計算例:売上160万円・税法上の経費40万円の場合

【税の判定】 160万円 − 40万円 − 65万円 = 55万円 ≦ 58万円 → 税の扶養内
【社会保険の判定】
  経費40万円が全額認められる場合:160万円 − 40万円 = 120万円 < 130万円
  認められる経費が20万円だけの場合:160万円 − 20万円 = 140万円 ≧ 130万円

このように、税の扶養には収まっていても、社会保険では経費として認められる範囲しだいで判定が変わります。どの経費を差し引けるかの具体的な線引きは、協会けんぽか健康保険組合かによって、また組合ごとの規約によっても異なります。扶養に入ったまま事業を続けられるかは、必ず扶養する側の勤め先が加入する健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)に確認してください

社会保険の扶養から外れると、自分で国民健康保険と国民年金(第1号被保険者)に加入し、保険料を負担することになります。保険料の帳簿での扱いは国民健康保険・国民年金の仕訳の記事で解説しています。

よくある誤解

「103万円・123万円の壁」は給与の話

103万円(2024年分まで)・123万円(2025年分以後)という数字は、給与収入だけの人が配偶者控除の所得基準を給与収入に換算したものです。個人事業主の判定はあくまで所得58万円以下であり、売上123万円が上限になるわけではありません。

「106万円の壁」は個人事業主には関係しない

いわゆる「106万円の壁」は、パートなど勤め先に雇われて働く人が、週の所定労働時間20時間以上・月額賃金8.8万円以上(年収換算で約106万円)・従業員51人以上の企業勤務などの要件を満たすと、勤め先の厚生年金・健康保険に加入することになる制度の通称です(詳細は厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」参照。なお月額賃金8.8万円の要件は2026年10月に撤廃が予定されています)。これは賃金(給与)を基準にした制度なので、事業所得しかない個人事業主には適用されません。ただし、事業とパートを掛け持ちしている場合は、パート部分がこの要件に該当すれば勤め先の社会保険に加入することになります。

税の扶養と社会保険の扶養は連動しない

「配偶者控除の対象だから社会保険も大丈夫」とは言えません。税は1〜12月の所得の実績、社会保険は今後の見込み年収と、対象も時点も異なります。それぞれ別々に確認が必要です。

青色事業専従者は配偶者控除の対象外

配偶者を自分の事業の専従者にして給与を払っている場合、その配偶者は配偶者控除・配偶者特別控除の対象になれません。詳しくは青色事業専従者給与の記事をご覧ください。

まとめ

  • 「扶養」には(配偶者控除など)と社会保険(被扶養者)の2種類があり、基準も判定時点も別
  • 税の扶養は合計所得金額58万円以下(2025年分以後)。収入ではなく経費と青色申告特別控除を差し引いた後の所得で判定される
  • 所得58万円超でも133万円以下なら配偶者特別控除が段階的に使える
  • 社会保険の扶養は今後1年間の見込み年収130万円未満が原則。差し引ける経費の範囲は健康保険により異なり、経費や青色申告特別控除を全額差し引けるとは限らないため、必ず加入先の健康保険に確認する
  • 「103万円・123万円・106万円の壁」は給与で働く人の話で、個人事業主にはそのまま当てはまらない

扶養内で働くには、自分の所得がいまいくらなのかを常に把握しておくことが欠かせません。青色会計で日々の売上と経費を記帳しておけば、所得の現在地をいつでも確認しながら仕事量を調整できます。


本コラムは一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については税理士にご相談ください。

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