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フリーランスが知っておきたい複式簿記の基本
青色申告で65万円控除を受けるには「複式簿記」による記帳が必要です(国税庁 No.2072 青色申告特別控除)。名前は難しそうに聞こえますが、基本的な考え方を理解すれば、フリーランスの日常的な取引のほとんどは数パターンの仕訳で記録できます。
※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいています。
複式簿記とは何か
複式簿記とは、すべての取引を「借方(左)」と「貸方(右)」の2つの側面から記録する帳簿のつけ方です。
たとえば「クライアントから10万円の報酬を受け取り、普通預金に入金された」という取引は次のように記録します(免税事業者で消費税を区分しない場合の例)。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 100,000円 | 売上高 | 100,000円 |
「普通預金(資産)が増えた」という事実と、「売上高(収益)が発生した」という原因の両面を同時に記録しています。この二面性が複式簿記の本質です。
対して、収入と支出だけを記録する「単式簿記」(家計簿のようなもの)では、「いくら入ってきたか」は記録できますが、「それが何の収益で、何の資産に変わったか」まではわかりません。
なぜ複式簿記が必要なのか
青色申告特別控除には10万円・55万円・65万円の3段階があります。10万円控除は簡易な記帳でも受けられます(国税庁 No.2070 青色申告制度)。
| 控除額 | 記帳方式 | 追加要件 |
|---|---|---|
| 10万円 | 単式簿記でも可 | — |
| 55万円 | 複式簿記が必須 | — |
| 65万円 | 複式簿記が必須 | e-Tax申告または優良な電子帳簿保存 |
フリーランスの多くが対象となる所得税率(5〜20%程度)で考えると、65万円控除の価値は年間3万〜13万円の節税に相当します。月額換算で2,500〜10,000円以上の差になるため、複式簿記で記帳する価値は十分にあります。
借方・貸方の考え方
複式簿記を難しく感じさせる最大の原因が「借方・貸方」という用語です。歴史的な経緯で名付けられた言葉で、現代的な意味はありません。次の表を覚えるのが最も確実です。
| 勘定科目の種類 | 借方(左)で増える | 貸方(右)で増える |
|---|---|---|
| 資産(現金・預金・売掛金など) | ✅ 増加 | 減少 |
| 負債(借入金・未払金など) | 減少 | ✅ 増加 |
| 純資産(元入金など) | 減少 | ✅ 増加 |
| 収益(売上高など) | 減少 | ✅ 増加 |
| 費用(旅費・消耗品費など) | ✅ 増加 | 減少 |
「資産と費用は借方で増える」「負債・純資産・収益は貸方で増える」と覚えると整理しやすいです。
フリーランスがよく使う仕訳パターン
1. 売上の計上
クライアントへ請求書を発行した時点(発生主義)で売上を計上します。以下は課税事業者(インボイス発行事業者)として消費税を区分する場合の例です。免税事業者の場合は消費税込みの金額をそのまま売上高に計上します(国税庁 No.6375 税抜経理方式又は税込経理方式による経理処理)。
請求書発行時
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 110,000円 | 売上高 | 100,000円 |
| 仮受消費税 | 10,000円 |
入金時
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 110,000円 | 売掛金 | 110,000円 |
2. 経費の支払い
ビジネス用のソフトウェアを購入した場合の例です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 消耗品費 | 10,000円 | 普通預金 | 10,000円 |
3. クレジットカード払いの経費
カードで支払った際の仕訳は2段階です。
カード支払い時(経費の発生)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 消耗品費 | 5,000円 | 未払金 | 5,000円 |
口座から引き落とし時
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未払金 | 5,000円 | 普通預金 | 5,000円 |
個人事業主特有の注意点
事業とプライベートの分離
個人事業主は法人と異なり、事業口座とプライベートの口座が混在しがちです。プライベートな支出は経費になりません。事業用の銀行口座・クレジットカードを別に用意することで、記帳の手間と誤りを大幅に減らせます。
「事業主借」「事業主貸」
個人事業主特有の勘定科目として「事業主借」と「事業主貸」があります。
- 事業主借:プライベートのお金を事業に使った場合に使う貸方科目
- 事業主貸:事業のお金をプライベートに使った場合に使う借方科目
たとえばプライベートの財布から事業の消耗品を買った場合は次のように記録します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 消耗品費 | 3,000円 | 事業主借 | 3,000円 |
まとめ
複式簿記の要点は以下の3つです。
- すべての取引は「借方(左)」と「貸方(右)」の合計が一致するように記録する
- 資産・費用は借方で増え、負債・純資産・収益は貸方で増える
- 55万円・65万円控除のために複式簿記は必須で、節税効果は大きい
実際の仕訳は数十パターンを覚えれば大半の取引に対応できます。青色会計では仕訳テンプレートを使って繰り返しの入力を効率化できます。
本コラムは一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については税理士にご相談ください。