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個人事業主の赤字と確定申告|純損失の繰越控除・繰戻し還付を解説

開業初年度や設備投資がかさんだ年など、個人事業主なら赤字の年もあります。「赤字なら税金はかからないから申告しなくていい」と考えてしまいがちですが、申告をしないと赤字を翌年以降の節税に活かす「純損失の繰越控除」が使えなくなります。この記事では、赤字の年でも確定申告をした方がよい理由と、繰越控除・繰戻し還付の仕組み・手続きを解説します。

※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいています。

個人事業主が赤字でも確定申告をした方がよい理由

所得税の確定申告が義務になるのは、原則として「所得金額の合計額が所得控除の合計額を超え、納める税額が生じる場合」です。事業が赤字で他に所得がなければ、納める所得税はなく、申告の義務も原則としてありません。

しかし、義務がないことと、申告しなくてよいことは別です。赤字(純損失)を翌年以後に繰り越すには、損失が生じた年分の確定申告書を提出し、かつ、その後連続して確定申告書を提出することが必要とされています(国税庁 令和7年分 確定申告の手引き(損失申告用))。この申告は「確定損失申告」と呼ばれます。

つまり、赤字の年に申告をしないと、その赤字は翌年以降の黒字と相殺できず、そのまま消えてしまいます。赤字の年こそ申告するメリットが大きいのです。このほか、報酬から源泉徴収されている場合は申告により還付を受けられることや、収入状況を証明する書類(申告書の控え)が残ることも実務上のメリットです。

損益通算|事業の赤字はまず他の所得と相殺する

事業所得の赤字は、まず同じ年の他の所得と相殺します。これを損益通算といいます(国税庁 No.2250 損益通算)。

損益通算の対象になる(赤字を他の所得から差し引ける)のは、不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の4つの所得の損失です。

  • 会社員が副業で個人事業を営んでいる場合(副業が事業所得に該当する場合):事業所得の赤字は給与所得と通算できます
  • 副業が雑所得に該当する場合:雑所得の赤字は他の所得と通算できません。給与所得や一時所得などの赤字も同様に通算できません

副業の規模や記帳の状況によって事業所得か雑所得かの判定は変わり、赤字の通算可否に直結します。判断に迷う場合は税務署や税理士に確認してください。

損益通算をしてもなお引き切れなかった赤字が「純損失の金額」です。この純損失をどう扱うかが、次の繰越控除と繰戻し還付です。

純損失の繰越控除とは|赤字を翌年以後3年間繰り越せる

青色申告をしている個人事業主は、純損失の金額を翌年以後3年間にわたって繰り越し、各年分の所得金額から控除できます(国税庁 No.2070 青色申告制度)。

3年の数え方

「翌年以後3年間」なので、たとえば2026年分で生じた純損失は、2027年分・2028年分・2029年分の所得から控除できます。3年たっても引き切れなかった残額は、それ以降には繰り越せません。

なお、令和5年(2023年)4月1日以後に特定非常災害の指定を受けた災害により生じた純損失については、一定の場合に繰越期間が5年間に延長される特例があります。

適用の要件

  1. 純損失が生じた年分について青色申告をしていること(青色申告の始め方は開業届と青色申告承認申請書の出し方を参照)
  2. 損失が生じた年分の確定申告書を提出していること
  3. その後連続して確定申告書を提出していること

途中の年の申告が抜けると繰越控除が受けられなくなるため、繰越期間中は黒字・赤字にかかわらず毎年申告を続けることが重要です。

具体例で見る繰越控除の流れ

1年目に100万円の純損失が生じ、2年目・3年目が黒字になったケースです(金額は繰越控除前の所得金額。説明のための簡略化した例です)。

年分繰越控除前の所得金額繰越控除額控除後の所得金額翌年に繰り越す純損失
1年目▲100万円▲100万円(純損失)100万円
2年目60万円60万円0円40万円
3年目80万円40万円40万円0円
  • 2年目:所得60万円から繰越損失100万円のうち60万円を控除 → 所得0円。残り40万円(100万円 − 60万円)を翌年へ繰り越し
  • 3年目:所得80万円から残りの40万円を控除 → 所得40万円。繰越損失は使い切り(40万円 − 40万円 = 0円)

繰越控除は基礎控除などの所得控除を差し引く前の、所得金額の段階で控除します。この例では2年目の所得税がかからなくなるだけでなく、3年目も課税対象が40万円分小さくなり、1年目の赤字100万円がまるごと節税に活きています。

純損失の繰戻し還付|前年の所得税から還付を受ける選択肢

繰越しとは逆方向の制度として、純損失の繰戻しによる還付があります。前年も青色申告をしている場合は、純損失の繰越しに代えて、その損失額を前年分の所得金額に繰り戻して控除し、前年分の所得税額の還付を受けることができます(国税庁 No.2070 青色申告制度)。

手続きは、「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を確定申告期限内に納税地の所轄税務署へ提出します(国税庁 A1-4 純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求手続)。e-Taxまたは書面で提出でき、請求内容は税務署で審査されます。なお、事業の全部の譲渡・廃止などの事実が生じた場合には、その前年に生じた純損失を前々年分に繰り戻せるケースもあります。

繰戻し還付を請求した金額は、繰越控除の対象からは除かれます(同じ損失の二重利用はできません)。

繰越しと繰戻し、どちらを選ぶか

どちらが有利かは状況によって異なり、一概には言えません。判断材料としては次のような点があります。

  • 前年に納めた所得税があるか:繰戻し還付は、前年分の所得金額から純損失を控除して税額を再計算し、その差額の還付を受ける仕組みです。前年の納税額が少なければ、還付される金額も小さくなります
  • 翌年以降の黒字の見込み:所得税は所得が大きいほど税率が上がる累進課税のため、将来大きな黒字が見込まれるなら、繰り越して高い税率の所得と相殺する方が節税効果が大きくなる場合があります
  • 資金繰り:繰戻し還付は翌年を待たずに現金が戻る点がメリットです

前年の納税額・今後の事業計画によって最適な選択は変わるため、金額が大きい場合は税理士への相談をおすすめします。

白色申告の場合|繰り越せる赤字は限定的

純損失の金額の全額を繰り越せるのは、損失が生じた年分について青色申告をしている場合です。白色申告の場合に繰り越せるのは、次の損失に限られます(国税庁 令和7年分 確定申告の手引き(損失申告用))。

  • 変動所得の損失(事業から生じたものに限ります。漁獲や養殖による所得、印税・原稿料・作曲料などによる所得の損失)
  • 被災事業用資産の損失(棚卸資産や事業用固定資産などの災害による損失)
  • 雑損失の金額

通常の営業活動で生じた赤字は、白色申告では繰り越せません。赤字リスクに備える意味でも青色申告が有利です。青色・白色の違い全般は青色申告と白色申告の違いで解説しています。

赤字の年の青色申告特別控除の注意点

青色申告特別控除(最高65万円・55万円・10万円)は、不動産所得・事業所得の金額の合計額が控除額の上限です(10万円控除では山林所得も対象に含まれます。国税庁 No.2072 青色申告特別控除)。

つまり、特別控除によって赤字を作ったり、赤字を大きくしたりすることはできません。事業が赤字の年は特別控除の適用余地がなく、控除しきれなかった分を翌年に繰り越すこともできません。「純損失100万円 + 特別控除65万円 = 165万円を繰り越せる」とはならない点に注意してください。控除額の区分や要件は青色申告特別控除10万・55万・65万円の違いと選び方で詳しく解説しています。

手続き|確定申告書第四表(損失申告用)で申告する

損失申告(赤字を翌年以後に繰り越す申告)には、通常の申告書に加えて**確定申告書第四表(損失申告用)**を使います。第四表は(一)(二)の2枚で構成され、申告書第一表・第二表と併せて提出します。第四表には、その年の損失額、損益通算の計算、翌年以後に繰り越す損失額などを記載します。

翌年以降の流れも含めると、手続きは次のようになります。

  1. 赤字が出た年:期限(原則、翌年3月15日)までに第一表・第二表・第四表と青色申告決算書を提出する
  2. 翌年以降:繰越控除を受ける年分の申告書で、繰り越した損失額を所得から差し引く(申告書等作成コーナーや会計ソフトでは繰越損失額を入力する欄があります)
  3. 繰越期間中は毎年連続して確定申告を続ける

確定申告全体の流れは個人事業主の確定申告のやり方を参照してください。

まとめ

  • 赤字の年は納める所得税が生じなければ申告義務は原則ないが、申告しないと赤字を繰り越せない
  • 事業所得の赤字はまず損益通算で給与所得など他の所得と相殺できる(雑所得の赤字は通算不可)
  • 通算しきれない赤字(純損失)は、青色申告なら翌年以後3年間繰り越して各年の所得から控除できる
  • 前年も青色申告していれば、繰戻し還付で前年分の所得税の還付を受ける選択肢もある(どちらが有利かは状況次第)
  • 白色申告で繰り越せるのは変動所得の損失・被災事業用資産の損失などに限られる
  • 損失申告には**確定申告書第四表(損失申告用)**を使い、繰越期間中は連続して申告する

繰越控除を確実に受けるには、赤字の年も含めて毎年の記帳と申告を途切れさせないことが前提になります。青色会計は複式簿記による記帳と青色申告決算書の作成に対応しており、赤字の年の損失申告から翌年以降の申告まで、継続した帳簿づけを支えます。


本コラムは一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については税理士にご相談ください。

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